世の中には、二十代前半から薄毛が進行してしまう人がいる一方で、七十歳を過ぎても黒々とした豊かな髪を保っている人がいます。この残酷なまでの個人差は、一体どこから来るのでしょうか。生活習慣やストレスの違いも多少は影響しますが、決定的な差はやはり「遺伝子」と「ホルモン受容体」にあります。若くしてAGAを発症する人は、遺伝的に「5アルファリダクターゼ」という酵素の活性が非常に高く、かつ「男性ホルモン受容体」の感受性が極めて高いという特徴を持っています。酵素の活性が高いと、若い頃から大量のテストステロンが脱毛ホルモンであるDHTに変換され続けます。そして受容体の感受性が高いと、そのDHTに対して毛根が過敏に反応し、強力な脱毛シグナルを出し続けてしまうのです。この遺伝的スイッチが、思春期以降の男性ホルモンの分泌が活発になる時期にオンになると、二十代という若さでも一気に薄毛が進行します。これを「若年性脱毛症」と呼びます。一方、高齢でもフサフサな人は、これらの遺伝的リスクを持っていないか、持っていても非常に弱いと考えられます。彼らの頭皮では、酵素があまり働かずDHTが生成されにくいか、あるいはDHTがあっても受容体がそれを無視しているため、脱毛シグナルが出ないのです。その結果、ヘアサイクルは正常に保たれ、加齢による自然な細胞の衰え以外で髪が減ることはありません。よく「あの人は苦労していないからハゲないんだ」などと言われますが、実際にはどんなにストレスフルな生活を送っていても、この遺伝的耐性があればAGAにはなりません。逆に、どんなに健康的な生活を送っていても、遺伝的リスクが高ければAGAは発症します。これがAGAの不条理な現実です。しかし、若くして発症しやすい遺伝子を持っているからといって、絶望する必要はありません。現代医学では、この遺伝的なメカニズムに介入し、酵素の働きをブロックする薬が存在します。リスクが高い人ほど、早期に治療を開始することで、遺伝による運命を変えることが可能です。高齢でフサフサな人を羨むよりも、自分の体質を正しく理解し、科学の力を借りて自分の髪を守ることが、現代における賢い生き方と言えるでしょう。
若くしてハゲる人と高齢でもフサフサな人の原因差