夫が薄毛を気にし始めたのは、もう二年ほど前のことでした。最初は「最近、お風呂の排水溝の髪の毛が増えた気がするな」なんて冗談めかして笑っていましたが、時間が経つにつれて、その笑顔は少しずつ曇っていきました。朝、鏡の前で髪をセットする時間が長くなり、出かける前には念入りに合わせ鏡で頭頂部をチェックする。そんな夫の姿を見るのは、妻としてとても切ないものでした。何とか力になりたいと思っても、これは男性にとって非常にデリケートな問題です。私が不用意に「病院に行ってみたら?」と口にすることで、彼のプライドを深く傷つけてしまうのではないかと、かける言葉を見つけられずにいました。転機が訪れたのは、ある週末の夜でした。夫がスマートフォンで何かを真剣に検索しているようだったので、そっと後ろから覗いてみると、それはAGA専門クリニックのウェブサイトでした。今だ、と思った私は、勇気を出して「私も一緒に話を聞きに行こうか?」と声をかけてみました。すると夫は、一瞬驚いたような顔をしましたが、すぐにどこか安堵したような表情で「うん、ありがとう」と小さな声で答えてくれたのです。一人で行くのは心細かったけれど、誰にも相談できずにいたのだと、そのとき初めて彼の胸の内がわかりました。二人で訪れたクリニックの無料カウンセリングは、想像していたよりもずっと明るく、プライバシーに配慮された空間でした。専門のカウンセラーの方が、まず夫の悩みを丁寧にヒアリングしてくださり、その後、私にも「奥様から見て、何か気になっていることはありますか?」と話を振ってくれました。夫自身が言い出しにくいと感じていた「毎月の治療費は家計に響かないか」といった金銭面での心配や、「治療を続けることへの漠然とした不安」などを、私が代わりに質問することができたのは、同行して本当に良かったと感じた点です。医師の診察でも、専門的な治療の説明を二人で聞くことで、内容への理解が格段に深まりました。夫一人だったら、緊張して半分も覚えていられなかったかもしれません。カウンセリングを終えてクリニックを出たとき、夫は「一人じゃ絶対に来られなかった。一緒に来てくれて本当にありがとう」と何度も言ってくれました。AGAの悩みは、本人が一番辛いのはもちろんですが、それを支える家族にとっても無関係ではありません。
夫のAGAの悩みに寄り添いカウンセリングに同行した話