三十歳を過ぎた頃、ふと鏡を見ると、生え際が以前より後退していることに気づきました。いわゆるM字の進行です。父も祖父も髪が薄かったので、いつかは自分も、と覚悟はしていましたが、実際にその兆候が現れると、心は大きく揺らぎました。まだクリニックに行くほどの勇気も、経済的な余裕もない。そんな私が最初に頼ったのが、インターネットの口コミで評判の良かった市販の育毛剤でした。AGAに特化していると謳われたその製品は、少し高価でしたが、これで進行が食い止められるなら安いものだ、と自分に言い聞かせ、期待を込めて購入しました。その日から、毎晩の風呂上がりに育毛剤を頭皮に塗布し、丁寧にマッサージする習慣が始まりました。ひんやりとした液体が頭皮に浸透していく感覚は心地よく、「何か対策をしている」という安心感が、当時の私にとっては大きな精神的な支えとなりました。使い始めて三ヶ月ほど経った頃、髪に少しハリとコシが出てきたような気がしました。抜け毛の量も、心なしか減ったように感じました。しかし、肝心の生え際の後退が止まる気配はありません。半年、一年と使い続けましたが、髪質の改善は感じられるものの、薄毛の進行そのものを食い止めることはできていない、というのが正直な実感でした。鏡を見るたびに、ゆっくりと、しかし確実に後退していく生え際のライン。育毛剤への投資が無駄だったとは思いません。頭皮環境は良くなったでしょうし、何より対策を始めたことで精神的な安定を得られました。しかし、私はこの経験を通じて、AGAという進行性の脱毛症の勢いを、頭皮環境の改善だけで止めることの難しさを痛感したのです。このままではいけない。私はついに、専門のクリニックの扉を叩く決意をしました。育毛剤は、私にとってAGAと向き合うきっかけを与えてくれた、重要な第一歩だったのです。
私が育毛剤でAGA対策を試みた結果