三十代半ば、シャワーを浴びるたびに排水溝に溜まる黒い塊を見るのが、私の日課であり、憂鬱の始まりだった。最初は気のせいだと思っていた抜け毛は、日に日にその量を増し、明らかに頭頂部が薄くなっていることを認めざるを得なくなった。これがAGA(男性型脱毛症)か。絶望的な気持ちで専門クリニックの門を叩き、投薬治療を開始した。医師からは「治療開始後に一時的に抜け毛が増えることがあります」と説明を受けていた。いわゆる初期脱毛だ。頭では理解していたつもりだったが、実際にその時期が訪れた時の衝撃は想像を絶するものだった。治療を始めたのに、以前よりも枕につく髪の毛が増えている。シャンプーをするのが怖い。鏡を見るたびに、さらに薄くなった頭皮が目に入り、「この治療は間違っているんじゃないか」という疑念が心を支配した。何度も治療をやめようと思った。しかし、そのたびに医師の「これは新しい髪が生えるための準備期間です」という言葉を思い出し、すがるような気持ちで薬を飲み続けた。地獄のような二か月が過ぎた頃だろうか。ある朝、ふと気づいた。枕元の抜け毛が、明らかに減っている。排水溝の黒い塊も、以前より小さくなっている。半信半疑で鏡を覗き込み、頭頂部に指を滑らせると、チクチクとした短い毛の感触があった。それは、紛れもなく新しい生命の息吹だった。その瞬間、目の前の霧が晴れるような感覚に襲われた。あの辛い抜け毛の時期は、終わりへの序章ではなく、始まりへのプロローグだったのだ。抜け毛は、私に多くのことを教えてくれた。物事には好転する前に一時的に悪化するように見える時期があること。そして、不安な時こそ、専門家を信じて耐え抜く強さが必要であること。今、私の髪は治療前とは比べ物にならないほど回復した。そして、あの抜け毛の日々を乗り越えた経験は、私の心をも強くしてくれたと確信している。
私のAGA治療体験記!抜け毛が教えてくれたこと