髪の毛が成長するということは、生物学的に見れば「細胞分裂の連続」に他なりません。頭皮の奥にある毛根の最深部には毛乳頭があり、その周囲を毛母細胞が取り囲んでいます。毛乳頭が毛細血管から栄養と酸素を受け取り、それをエネルギー源として毛母細胞に「分裂しろ」という指令を出します。毛母細胞はこれを受けて活発に分裂・増殖を繰り返し、角質化した細胞が押し上げられていくことで、私たちが目にする髪の毛となって伸びていきます。つまり、髪の毛を作るためには、莫大なエネルギーと材料が必要なのです。しかし、AGAを発症している頭皮では、この重要な補給ルートである血流が滞っているケースが非常に多く見られます。これには二つの要因が絡んでいます。一つは、AGAの原因物質であるDHTが毛乳頭に作用し、毛細血管を収縮させたり、血管の新生を阻害したりする可能性です。もう一つは、薄毛を気にするストレスや、現代人特有の眼精疲労、首や肩の凝りによって頭皮が緊張し、物理的に血管が圧迫されてしまうことです。血流が悪化すると、毛母細胞に必要な栄養素(タンパク質やミネラル)や酸素が十分に届かなくなります。栄養不足に陥った毛母細胞は、細胞分裂のスピードを落とさざるを得ません。その結果、髪の毛は太く成長することができず、細くひょろひょろとした状態になります。さらに悪いことに、血流が悪いと、毛根周辺に蓄積した老廃物や脱毛因子を排出することもできなくなります。栄養は来ないのに、悪い物質は居座り続けるという、まさに最悪の環境が出来上がってしまうのです。これが「負のスパイラル」です。AGA治療薬の一つであるミノキシジルは、この負のスパイラルを断ち切るために使用されます。ミノキシジルには強力な血管拡張作用があり、収縮してしまった毛細血管を広げ、血流を劇的に改善させる力があります。さらに、毛乳頭細胞に直接働きかけて、血管内皮増殖因子(VEGF)などの産生を促し、新しい血管を作らせる働きもあります。枯れかけた植物に再び水を引くように、血流を回復させることで毛母細胞を叩き起こし、再び活発な細胞分裂を促すのです。どんなにDHTの発生を抑えても、髪を作る材料とエネルギーが届かなければ髪は育ちません。だからこそ、ホルモン対策(守り)と血流改善(攻め)の両輪でアプローチすることが、AGA治療の鉄則とされているのです。仕組みを知れば、頭皮マッサージや生活習慣の改善がなぜ重要なのか、その意味も深く理解できるはずです。
毛母細胞の分裂と血流不足が招く負のスパイラル