多くの患者さんがAGA治療を始める際、「昔のようなフサフサの状態に戻りたい」という高い理想を抱いて来院されます。そのお気持ちは痛いほど分かりますが、専門医の立場からすると、AGA治療における現実的な「ゴール」とは、少し違う場所にあることをまずご理解いただく必要があります。AGAは進行性の脱毛症であり、治療の第一目標は、まず「進行を止めること」、そして「現状を維持すること」にあります。その上で、治療効果によって髪の状態が改善されれば、それは大きな成功と言えます。つまり、完全な回復や完治を目指すのではなく、自分自身が納得できるレベルまで改善させ、その状態をいかに長く保っていくか、というのがAGA治療における現実的なゴール設定なのです。このゴール設定は、患者さん一人ひとりの年齢や進行度、そして価値観によって大きく異なります。例えば、二十代の若者であれば、できる限り発毛を促し、薄毛が目立たない状態を目指すことがゴールになるでしょう。一方で、五十代、六十代の方であれば、これ以上進行させず、今の髪の量を維持できれば満足、という方も少なくありません。この個人差を無視して、画一的なゴールを目指そうとすると、いつまで経っても満足感が得られず、精神的にも経済的にも疲弊してしまいます。私が診察で心がけているのは、患者さんとじっくり対話し、その方がどこまでの改善を望んでいるのか、どのくらいの期間と費用をかけられるのかを共有し、共にオーダーメイドのゴールを設定していくことです。そして、治療がある程度進み、髪の状態が安定してきた段階で、再び今後の治療方針について話し合います。それが「やめどき」や「減薬」を考えるタイミングです。AGA治療とは、単に薬を処方するだけではありません。患者さんの人生に寄り添い、その時々で最適なゴールを探し続ける、長い旅のパートナーであるべきだと私は考えています。
医師が語るAGA治療のゴールとは