いつからか、私の朝は分け目のチェックから始まるようになっていた。光の加減、鏡の角度を変えながら、どうすれば地肌が目立たないかを研究する毎日。お洒落を楽しむはずの時間が、コンプレックスと向き合う苦痛な時間へと変わっていました。そんな私が変わるきっかけになったのは、あるファッション雑誌の特集記事でした。そこには、素敵なスカーフや帽子を主役にしたコーディネートが並んでいたのです。今まで私は、帽子やヘアアクセサリーを「分け目を隠すための道具」としか見ていませんでした。しかし、記事の中のモデルたちは、それらをファッションの一部として、自信に満ちた表情で身につけていました。その姿を見て、ハッとしたのです。私は悩みを隠すことばかりに必死で、お洒落を楽しむという本来の目的を忘れていたのだ、と。その日、私は思い切ってデパートの帽子売り場へ向かいました。今までなら絶対に選ばなかったような、つばの広いエレガントなハットや、色鮮やかなベレー帽。試着してみると、鏡の中には思ったよりも楽しそうな自分がいました。分け目のことなどすっかり忘れ、純粋に「どの帽子が今日の服に合うかな」と考えている自分に気づいたのです。それ以来、私のクローゼットには帽子やターバン、デザイン性の高いヘアクリップが少しずつ増えていきました。分け目を隠すためではなく、今日の気分を表現するためにお洒落を選ぶ。そのマインドの変化が、私をコンプレックスの呪縛から解放してくれました。もちろん、頭皮ケアや生活習慣の見直しも続けています。でも、それと同時進行で、今の自分をどう魅力的に見せるかという視点を持つことができたのです。分け目の悩みは、私に新しいお洒落の扉を開けてくれる、意外なきっかけになってくれたのかもしれません。