毎日のシャンプーやブラッシングで髪が抜けること自体は、決して異常なことではありません。人間の髪の毛は約十万本あり、ヘアサイクルによって毎日五十本から百本程度は自然に抜け落ちているからです。しかし、その「抜け方」と「毛根の状態」には、健康な脱毛とAGAによる病的脱毛との間に決定的な違いがあります。この違いを見分けることができれば、自分がAGAの進行期にあるのかどうかをかなり高い精度で推測することができます。まず、正常なヘアサイクルを終えて抜けた髪の毛根を見てみましょう。健康な抜け毛の毛根は、白っぽく丸みを帯びており、ふっくらとした形をしています。これは「棍毛(こんもう)」と呼ばれ、髪が成長を止めて休止期に入り、毛根が角化して自然に脱落した証拠です。また、毛根の先に「毛根鞘(もうこんしょう)」と呼ばれる半透明の膜のようなものが付着していることがありますが、これも頭皮と髪を繋ぎ止めていた組織の一部であり、異常ではありません。一方、AGAによって成長途中で抜けてしまった髪の毛根には、いくつかの異常が見られます。最も典型的なのは、毛根の膨らみがほとんどなく、全体的に細く尖ったような形をしている場合です。これは、髪が十分に成長する前に毛母細胞の活動が停止してしまったことを示しています。また、毛根が黒っぽく変色している場合や、尻尾のようなものがヒョロリと伸びている場合も異常脱毛のサインです。これは、本来であれば退行期を経てゆっくりと準備をしてから抜けるはずが、何らかのダメージやホルモンの影響で急激に引き抜かれるように抜けてしまったことを示唆しています。さらに重要なのが、抜け毛の長さと太さです。正常な抜け毛は、太くて長い、ある程度成長しきった髪が中心です。しかし、AGAの場合は、まだ成長過程にあるはずの細くて短い髪、いわゆる「産毛」のような髪が多く抜けるようになります。もし、排水溝に溜まった抜け毛の中に、数センチしかないような短い毛や、色が薄く細い毛がたくさん混じっているとしたら、それはAGAの進行によってヘアサイクルが短縮され、毛包のミニチュア化が進んでいる強力な証拠です。この状態を放置すると、毛包はどんどん小さくなり、やがては目に見えないほどの産毛しか生えなくなってしまいます。自分の抜け毛を白い紙の上に並べて観察してみてください。太い毛に混じって細い毛がどれくらいあるか、毛根の形はどうなっているか。この地道な観察こそが、AGAを見分けるための最も身近で確実な診断法の一つなのです。
抜け毛の毛根観察でわかるAGAと正常な脱毛の違い